僕はレンダリング界のエッシャー

CG-ARTS協会のサイト面白い記事を見つけました。KeyShotの生みの親であるHenrik Wann Jensen氏についてインタビューなども踏まえて詳しく書かれています。どちらかというとカリフォルニア大学 サンディエゴ校(UCSDの准教授でもあります氏のアカデミックな活動に焦点が当てられています。ただ、このような学術研究を基にしてKeyShotのような製品が生まれてきたこと、良い製品には優秀なテクノロジーが不可欠なことがわかり非常に興味深いです。フォトンマッピング、サブサーフェススキャタリングに対して主に解説を加えていますがこの手の技術の蓄積がいかに大事か、またテクノロジーだけではダメでそれを製品にしていく(言い換えれば市場を正しく捉えて正しい方向性で製品開発を行うこと)過程も非常に大事であること、また製品開発のあとに有効なマーケティングをきちんと行ってビジネスモデルを確立していくこともテクノロジー、製品開発に負けず劣らず重要であること、いろんなことがわかります。

次の一文が印象に残りました。

「正直なところ、この時点では筆者は未だJensen氏が考案したモデルの真価を掴んでいなかったといえるのだが、いざSIGGRAPHに参加してみると、エレクトロニックシアターで流された映像のインパクトは実に大きく、“サブサーフェース・スキャタリング”“トランスルーセント”という言葉は、SIGGRAPH 2001のトレンドワードとなった。その時筆者の脳裏に鮮明に浮かんできたのが「僕がライティング技術を使ってやろうとしていることは、ちょうど絵画においてエッシャーがやったことと同じだ」という同氏の言葉だった。

ちょっとした気づきがあってその後技術のブレークスルーが続くようです。
かなり長い文章ですが非常に興味深い内容です。

レンダリング界のエッシャー 前編

サブサーフェス・スキャタリング

以前こちらのエントリーでもご紹介しましたが、KeyShotのマテリアルにはサブサーフェススキャタリング機能を持つものがあります。これは光がモデル表面を通過して内部で拡散、その後またこちらに戻ってきて目に触れる様のことですが、代表的なものは人間の肌になります。人間の肌は半透明なので光を吸収します。この技術当然のことながら人間をリアルに表現するには不可欠ですがかつては不可能とされていたことでした。現在は映画などで幅広く使われております。(因みにGPUを使うレンダラーではこのような表現は現状不可能です。論文レベルでは可能とされているのですがきちんと表現されているものは見たことがありません)

KeyShotの場合予め用意されているマテリアルをアサインすると簡単にリアルタイムに質感を再現します。こちらでも試してみました。下がその画像とムービーです。(ライティングイマイチなのはご勘弁をorz)

 

YouTube Preview Image

サブサーフェス・スキャタリング-Wikipedia

KeyShotとVFX

本家のブログに面白いエントリーがあったので転載します。KeyShotを映画のプレビズ(正確にはその前の段階ですね)に使うという面白い例です。VFXアーティストが質感を見るのに使っているようです。向こうの人なのでほめ方が若干大げさですがw、そのまま訳しています。

Greg Strasz

過去数年間、ありとあらゆるリアルタイムレンダリングソフトをチェックしてきましたがKeyShotをテストした後、これだ!ということになりました。プロジェクトの最初から、プリプロダクションの初期段階からディレクター、VFXスーパーバイザー、撮影ディレクターと密にコミュニケーションを取ってビジュアルな感覚を共有してプロジェクトに必要とされる品質を確保することが出来るようになりました。アートディレクターとしてプロダクションプロセス全体のVFXワークをを担当していますが、ディテール隅々にまで気を配ることにより、プロジェクトを成功に導くことが出来ます。私の名前はGreg Straszといいます。Red Baron、2012、2012、Anonymousなどの作品に参加しています。

コンセプトからルックの作成まで

KeyShotのデモ版を最初に立ち上げた時、大きなポテンシャルを持つパワフルなツールを手に入れたことに気づきました。何日かテストした後、プロダクションコンセプトとプレプロダクションレンダリングと非常に素早く作れることに感心しました。Luxion社のThomas Tegarに連絡してアルファ、ベータテストに参加してこのプロダクトの可能性をより良い方向に進めていこうと、思いました。

プロダクションにおいて、コンセプト、ショット、ルックなどでビジュアルな感覚を共有するのに、KeyShotは欠かせないツールとなりました。3Dモデル上でライティングやマテリアルの変更が必要な場合、KeyShot上でぱっとやり直してそれをVFXスーパーバイザーやディレクターに見てもらいます。つまり変更点をすぐに見ることが出来てフィードバックもそのまま返せるわけです。このプロセスで、例えばレンダリングのできあがりを待たなければいけない場合と違っていいショットを生み出すベースを作り出すことが出来ます。これはコストや時間を短縮するユニークなプロセスです。これらの変更点はCGやコンポジットパイプラインに簡単に反映できます。

 

 

KeyShot3Dスキャンモデル

KeyShotでスキャンされた3Dモデルもチェックしています。3Dチームがスキャンデータの掃除をして、モデルを完成させている間、KeyShotを使って簡単なプレビューを行います。基本的なライティングを決めてものがどのように見えるかをプレビューします。大抵、スキャンデータからのこの最初のレンダリングがルック作成の最初の一歩となります。

 

 

 

HDRIとKeyShot

2012のようなプロジェクトの場合、VFXのショットは合計1315個になります。(映画全体の半分の長さ)多くの異なる作成チーム、ポストプロダクション会社がHDRIの環境マップを撮影、使用します。HDRIファイルをテストするのにプロジェクトアセットをKeyShot上で開いています。32bit/チャンネルを持つHDRイメージをテストするのに通常ペイントツールやコンポジットツールを使用しますがKeyShotではもっと簡単にビジュアルフィードバックのチェックが可能です。

 

 

リアルタイムサブサーフェススキャタリング

VFXアーティストにとってリアルなキャラクターのレンダリングは大きなチャレンジですが、リアルタイムサブサーフェススキャタリングはそれ以上に困難な課題となります。KeyShotではそんなことはありません!リアルタイムにモデルを可視化してレンダリング計算に待たされること無くクオリティを上げることができます。生産的なだけでなくいろんなことを試すことが可能です。異なるライティング設定、より多くのマテリアルを簡単に、短時間でテストできます。カメラの変更、移動なども瞬時に設定出来ます。KeyShotが持つサブサーフェススキャタリングに更なる機能を望むとすれば表皮、皮下の表現、スペキュラー、グロッシー、ディスプレースメントマップなどでしょうか。Luxion社には期待しています。KeyShotはオフラインレンダリングを完全に置き換えるものではないですが、プロダクション自体に大きな価値をもたらしています。

 

 

 

 

 

 

面白い例です。CGなので実物がその場にあるわけではないので、「こういう感じだよ」と見せて廻るのに使っているのでしょうか。ハリウッドの場合はプレビズに沢山お金を掛けます。向こうのプレビズを見たことがある方なら気づかれたかと思いますが、これ完成品じゃないのか、と間違えるぐらいのクオリティです。あちらの場合、制作費用がファンド化されているので、いいプレビズを作って見せて投資を募る、という側面があるからなのですが、そういう意味ではこのプロセスが非常に重要になるのでしょう。後ろのCGチームも「これだよ」という画像一枚あるだけで作業が必要になります。テクスチャーとかライティングとか基本的なものは共有するのでしょう。当然、後ろはRendermanやらその手の類いのツールでやっているのでしょう。日本でも例えばゲームでこういうことやったら意外と役に立つのかも知れません。

iRay in Bunkspeed

なかなか面白いビデオがあるのでアップします。Bunkspeed社の製品が紹介されているのですが(KeyShotとの関係、経緯については以前、こちらで触れました)、NVidia社のiRayテクノロジーを用いてGPUでレンダリングしています。まずはビデオをご覧ください。

確かにGPUを使ったレイトレーシング、時間はめっぽう早くなるのですが、制限は色々と存在します。(それに関してはこちらで説明しました)具体的には、例えば車のヘッドライトの質感などは厳しいものがあります(この例ではプロトタイプですのでライトの形状があまり複雑でないのと、自発光をさせて目立たないようにしているようですw)。テクノロジーでいうとコースティクス、サブサーフェススキャタリングなどがこれにあたります。

時間がある方試して頂きたいのですが、例えば下のモデルをGPUのみで作ってみてください。こういった例が一番わかりやすいと思います。

KeyShotに関する質問

最近よく聞かれることが多いのでKeyShotとその前バージョンともいえるBunkspeed社のHypershotとの関係について少し説明してみます。
Bunkspeed社が販売していたレイトレーシングの技術は(製品としてはU Drive→Hyper Drive→Hyper Shotに搭載されたものです)元々Luxion社(今現在KeyShotを開発、販売している会社です)の創業者であり開発者でもあるHenrik Jensenさんが作ったものです。JensenさんはMental ImageでMental Rayの開発をしていてPhoton Mappingの発案者、IBLの提唱者でもあります。(確かアカデミー賞も受賞されています)
詳しい情報は氏のウェブサイトをご覧下さい。

おそらく既に氏の頭の中にあったのでしょうが、そのアイデア基にして開発を行い製品化したのが今現在のBunkSpeedという会社になります。当初、彼らのビジネスは主にアメリカの自動車会社の一つであるF社でありレイトレーシングの技術を使った製品U Driveを納めていました。当時の製品は非常に高額なものだったのですが、高額な製品はやはり市場が狭いのか同社は価格を下げて異なるマーケットに進出します。それがHyperShotです。

Jensenさんはこの間ずっとBunkspeed社の開発先として自分の会社で(これがLuxion社です)Bunkspeed社から仕事を請けてこれらの製品を作っていたのですが両社の間に(Bunkspeed社とLuxion社)トラブルがあり袂を分かつこととなりました。正確にはBunkspeedが開発費をLuxion社に払わなかったのが原因らしいです。
この辺りの事情詳しくはこちらに書いてあります。What’s going on with HyperShot?

結果的にレンダリングエンジンがなくなってしまったBunkspeed社はMental ImageのiRayを基にGPGPUのレンダラーを開発して製品化しました。これがShotです。

一方、独立したLuxion社はHypershotを発展させた製品KeyShotをリリースしました。ここまでが今、現在までの経緯となります。

さて、では、今後どうなるか?という話ですが(これも聞かれることが多いので、ですがあくまで個人的見解という前提で)述べてみます。

最近iRay等を含めNVIDIA社はGPUを強力にプッシュしてます。(自分がグラフィックボード作っているので当たり前ですが)。Bunkspeed、Shot以外にもいくつかのプラットフォームに既に実装されています。確かにGPGPUは計算速度は速いのですがまだ発展途上で色々と問題があります。例を挙げるとコースティクスの表現はできません。ガラスの下の映り込み等ですね。論文レベルではあるのですが寡聞にして綺麗に表示されているものこちらが知る限り未だありません。やはりこれはフォトン撒かないとできませんので、現状CPU側でやるしかありません。同じ点でサブサーフェススキャタリングもそうですね。リフレクション、リフラクション以外にできないこと意外に多いのです。そのような状況を考えると100%GPUに切り替わるということは現実的には不可能だと思われます。

一方で、ラスタライズ(OpenGLなどで表現するリアルタイムと呼ばれるものです)系もそろそろ表現に限界が見えてきてます。僕等の目が慣れてきたせいかちょっと綺麗に見せようと思ったらレイトレーシングが必要になります。
レイトレーシングに関しては様々な製品があります。現状、簡易的なレイトレーシング(計算を上手く端折るタイプですね)を一番上手くやっているのがHyperShot=KeyShotでして弊社がこの製品を扱い始めたのもその辺が経緯です。Jensenさんはフォトンマッピングあたりを熟知しているのでこの先良い製品を出すだろうという期待があります。GPU側のテクノロジーも順次取り入れていくと思われます。

最後に将来を踏まえての話です。

レンダラーに関しては用途により何がベストか変わりますのでなんともいえません。ですので製品に依存するのではなくもう少し長い目で見る必要があると思います。例えばマテリアルを資産として残しておきたいなら、RGBデータとテクスチャーは色情報として取っておくとか色々と方法があります。結局の所そういった前段階での準備のほうが時間やコストがかかるものです。製造系で導入したソフトを使わなくなってしまうというのもこの辺が要因と思われます。